聖剣をゴミクズに変えて。

整理整頓、掃除。そう言った類の事が死ぬほど苦手である。

死ぬ時すら何の準備もせずにあらゆる方向に汚れを飛び散らせ、後を濁しまくってこの世を去り、最後まできたねぇ奴だったと思われる気がしてならない。

花火になる程の潔さすら持ち合わせていない気がする。

 

世は大コロナ時代、右も左もマスク自粛大顰蹙とてんやわんやしているらしいが、中には「せっかく家にいるのだから掃除しちゃおっ」と言う思考を持てる人間もいるようだ。

意味が分からない。時間がぽっかり出来たのならその貴重な時間をフルに使って虚無を見つめるのが忙しい現代人が取れる一番贅沢な時間の使い道の筈である。

まぁ僕の家は散らかり放題で見つめられる虚無すら無い状態なのだが、とにかく虚無を見つめると言う時間セレブごっこを楽しむ誘惑を断ち切り自宅の掃除をしようとは並大抵の精神力では無い。

民意を聞く限りでは「コレダカラ老害」と「コレダカラゆとり」しかいない筈の日本はどこに行ったのか。

案外きたねぇのはデジタルネット社会だけでアナログリアル世界は下町スラムを除いて結構綺麗なのかも知れない。

 

では、せっかくなのでノるしかねぇ、このビッグウェーブに!と言いたい所だが、そうはいかねぇんだな、これが。

ゆとりなのは精神だけで体はおじいちゃんなので迂闊にビッグウェーブに乗ろうとしても溺れ死ぬだけで終わってしまう。お前が死ぬなら立派な掃除ぢゃん?と僕の心のギャルが携帯をいじりながら吐き捨ててくるが、死はよくない。ビッグウェーブに攫われて死ねば死体も残らないし完璧な掃除感が拭えないが、死はよくない。なんかで読んだ。

 

気持ちはある。気持ちだけで言えば一日500回は掃除しているし、なんなら綺麗な部屋に住んでいる。

それにこの世には部屋を綺麗にする術を記した書物がゴロゴロと転がっており、それらを読みその通りに実行すれば部屋は綺麗に出来るようになっている。

つまりその気になればいつでも部屋は綺麗になると言う事で実質部屋は汚れていないとも言えるし、既に綺麗な部屋を更に綺麗にしようと言うのは一休さんぐぬぬとなってしまう無理難題であるし、そういう過ぎたビューティー思考が行きつく先はスリムボディと見せかけた骨と皮だけみたいな惨状である。

 

まぁ今カタカタとキーボードを叩いている手を止め、ちょっと首を右に回せばゴミがこんにちはしてくるのだが、これはアルコールが見せる幻覚であろう。

よしんば現実だとしてもアレは僕の記憶にないだけで死んだおばあちゃんがくれた大切な雪コーの空きパックかも知れないし捨てるなんてとんでもない。既に来世でシャーマンになっているお婆ちゃんに呪われて死んでしまう。死は良くない。

 

掃除が苦手と言うか、整理整頓が無理なので「ゴミを捨てる」と言う行為はまぁまぁ出来なくもないが、「必要な物をいい感じに配置する」と言う事は絶望的に出来ない。

そして必要な物がよくない感じに配置されてる部屋はなんかきたねぇのである。

このクソみたいな特性はリアルだけでは無くゲームの世界にも持ち越される。

剣と魔法を巧みに使い、陸海空問わず旅を続け、愉快な仲間と共に世界を救う勇者になろうが中身が僕なので整理整頓は当然出来ない。

死者すら蘇らせる事が出来るのにカバンの中の薬草×99と言う文字列をどうにかする事が難しい。

 

ゲームをやらなくなるタイミングは色々あるが、僕にとって一番多いパターンがアイテムの整理が出来なくなった時である。

それだけでやめるとはならないがモチベーションが異常に落ちる。

FF14もアイテム欄が一杯になった瞬間に「もうこれ以上アイテムが増えるのはやだお!!」とダンジョンに出向くのをやめ、最終的に手持ちの装備を今身に着けているものを除いて全て捨てると言う暴挙に出た。

FGOも概念礼装だの種火だのが貯まりに貯まった瞬間にやる気スイッチがOFFとなったし、メギト72もオーブが所持数最大になった瞬間にせっせと回していた無料ガチャを放置、プレゼントボックスに積もって行くオーブ類は見て見ぬ振りを続けている。

 

整理整頓は、才能である。どう足掻いてもスキップが出来ない人間がいるように整理整頓がどうあっても出来ないと言う事もある。

なぜなら才能が無いので。才能が無くても諦めたくない!!と言う人は伝説の片づけ人(かたづけびと)を師匠につけ、瓢箪で酒を飲む師匠を頭に乗せて岩石を小指で砕くみたいな修行の末に家と上司を掌底で粉砕、キレイさっぱりこの世への未練を片づけるみたいな真似をしてもいいと思うが、僕にそこまでの気骨はない。なぜならゆとりなので。

 

まぁ掃除なんて出来なくても死にはしない筈である。

積み重なりまくったBL本タワーがある日倒壊、二次元のイケメンの群れに押しつぶされて圧死、母親が大量のアナルセックスの下から息子の亡骸を発掘と言う地獄が繰り広げられる可能性はあるが、多分大丈夫な筈である。

 

しかし、ゲームの世界では僕は割と勇者している方である。

片づけも出来ない勇者に殺される魔王の気持ちを考えるともうちょっとマトモな人間性を持ってあげた方がいいのでは無いかとも思う。

魔王の城はたまに片づけてない骸骨とかが転がっているが基本的には綺麗だし、あまりにも埃っぽくて城に乗り込んだ勇者御一行がハウスダストアレルギーを発症、咽すぎて勝負にならないみたいな事案は見た事が無いし、魔王一家がせっせと広いお城を掃除している筈である。血とか、無いことが多いし。

魔王が昨日食った唐揚げの油で勇者が転倒と言う事故も今の所僕の知る範囲では起きていない。ちなみに僕は落とした春巻きの油で軽く滑った。

出来なくても問題は無くても、やはり何事も出来ない奴より出来る奴の方が偉いし、広いお城を清潔に保っている身としてはぽっと出のだらしねぇ勇者に殺されては無念が過ぎるだろう。無念と言うのは恐ろしい。

基本勇者を邪魔しに来る亡霊系の敵の類は無念から産まれている。

つまりいらん無念を魔王に与えると倒した筈なのに華麗に復活、世界は再び闇に包まれたとなってしまい、3辺りまで話が続いてしまう。するとどうなるかと言うと大体のシリーズは3まで続くと駄作になるのだ。

 

僕が掃除が出来ないばかりに一つのファンタジーが駄作に変わってしまう危険性があると言う事だ。

 

掃除が出来ないデメリットは他にもあり、かの有名な竜王口説き文句「世界の半分を貴様にやろう」等も迂闊に乗れなくなる。

世界の半分もくれるんすか!やったー!!と本来なら無邪気に喜べるシチュエーションの筈だが、こちとら自室一つ清潔に保てない勇者である。

世界の半分を管理は出来ないし、世界の半分をゴミで埋め尽くし、知らない間に竜王の領地にもゴミがはみ出し「ちょっとーちゃんと片づけてよー。こっちにまでゴミが来てるじゃーん」と言う苦言に「分かってるよ!!」と逆切れをカマしながら更に陣地を広げていくと言う結果になりかねない。

雪見だいふく一つ分けてくれと言われただけでブチ切れる人間と違い、広い心で世界の半分をプレゼントフォー・ユーしてくれた竜王様に申し訳が立たない。

 

メロスは決意した。すぐにでも邪知暴虐のゴミ共を除かねばならない。と言いたい所だが、やはり掃除は難しいのである。

 

世界の創造主たる神すらも「なんか人間増えすぎてっから消さね?」と整理整頓出来ねぇ奴がとりあえず片っ端から全部捨ててみるみたいなメンタルで動く時代である。

神ですら出来ない物を僕風情が「必要な物」「不要な物」をちゃんと分け、必要な物をインスタ映えするように並べる等出来る訳が無い。

 

だが、何事も小さなことからコツコツとと言われている様に出来る事から始めるのが大切であろう。

とりあえず、剣と魔法を武器に魔物を片づける所から始めようと思う。