歯周ポケットの中の戦争

はてなブログさんが掲げる今週のお題は「ゆっくりいっぷく!」だ。

 

うるせぇ~。原文そのままに全て平仮名な所が心の奥底に眠る殺意をいい感じに刺激してくる。かわいこぶるタイプのおじさんと突如対峙してしまった時には問答無用で首の骨を折り、世界一可愛い首コテンをするお手伝いをして差し上げるのが一番だ。

長期戦は避け、速やかに息の根を止めよう。

センスと脈は同期させておくに限る。

 

さて、世界に誇れるライフハックを紹介しブロガーとしての格を見せつけた所で本題に入るが、最近歯医者に通っている。

月1の頻度で通っているし予約も入れているので、趣味と言っても差し支えない。
今までは「ご趣味は?」と聞かれても、秒で「ないんだ…」と見抜かれるリアクションを取りつつ「歩いたり…しますね」等と面白くもない事を言い放って相手を困惑させていたのだが、これからは自信満々に「自分磨きです」と答える事が出来る。

 

本当を言うと、虫歯の治療をするつもりで予約したので趣味にするつもりは無かったのだが、不摂生を叱られる覚悟で「歯が痛くて…」と告白し、罰を受けようと「ドリルでも彫刻刀でも持ってこい」と言う態度を取っていたのだが、「特に虫歯はないですね」と言われてしまった上に「せっかくなので歯のクリーニングしましょうか」とあれよあれよと通うノリにさせられてしまった為に趣味で自分磨きを始めることになってしまった。

 

悪いなみんな…先、行くぜ。

 

しかし歯医者と言うのは慣れないもので、通えど通えど楽しくなる雰囲気が微塵も感じられない。

一応、貴重な休日である日曜日に出掛ける訳だしちょっとオシャレしてみたりするのだが、欠片もウキウキしていない自分がいる。

歯医者の名誉の為に言っておくが、別に歯医者が何も面白くねぇクソみてぇな施設と言いたいわけではないのだ。

ただ、僕が通っている歯医者はショッピングモールの中に入っており、ゲームセンターやフードコート等に導かれてやってきた、特に何をするでもない親子連れが微笑ましく歩いているのだが、だからと言って僕まで一緒になってルンルン気分で足取りも軽く歯医者に入って「ハロー」とウインクを決めていては、子供達が「虫歯になっても人生楽しいんだ!!」と勘違いしてしまうかも知れない。

社会の一員である大人としてそのような無責任な真似は出来ない。

ここは陸の孤島、徒歩で行ける地獄よ…と言う顔を作っておかなければならないので、心もそれに引っ張られ楽しい雰囲気になれないのだ。

 

またお恥ずかしながら、当方自分磨きを始めたばかりの歯医者初心者でもある為、まだあまり歯医者と言う施設になれておらずいつも借りてきた猫のような態度を取ってしまう。

 

「痛かったら右手をあげてください」と言われても「まだアタシ達、ホントの心を打ち明けるほど親しくないじゃない(笑)」と思ってしまい、「いてぇな…」と思っても右手をあげる事が出来ない。

そもそも「痛かったら」の真意を量り切れていない所もある。

口の中という脆く弱い人体の中でも輪をかけてデリケートな部分を好き放題されているのだ。そりゃぁ、いてぇさ。痛くねぇ訳が無い。

なので「痛いです…」と勇気を出して本心を打ち明けた所で「そういう痛さで手をあげろつってんじゃねぇんだよな」と思われてしまう可能性が高いし、こちとら虫歯が無かったとは言え嘘でも「歯の健康に気を使っております」等とは言えない生活を送っている身である。

一生懸命赤の他人である僕の自分磨きの手助けをし、「歯と歯茎の境をマッサージするように優しくブラッシングしてあげてくださいね」とアドバイスまでくれていると言うのに、当の僕はベロベロに酔っぱらって歯も磨かず泥のように眠る日もあれば、気付いたら寝こけてしまい歯を磨いてなかったなと悔やむ朝もある体たらくだ。

そんな状態で「痛いです」なんて甘えた事を言うような事があれば即座に平手打ちを食らわされ「痛いか!!でもなぁ!私の心はもっと痛かったぞ!!」と怒られてしまうかも知れない。僕は彼ら彼女らを何気なく裏切り続けているのだ。その事実を忘れてはいけない。

また、口をゆすぐのも地味に難しい。

あのコップ、ちょうど二口分と「余り」と言う分量になっている気がする。

2回ゆすいだ後に「まだ残ってるから」と思い、一応口に含んでみるのだが明らかに不足している感があり、別に2回もゆすげば十分なのかも知れないがなんとなく「こいつわかってねぇな(やれやれ」みたいな事を思われているかも知れないといつも恥ずかしく感じている。恐らく歯医者上級者はちょうど二口分で収まるか、三口分きっちり均等の量でゆすげるように調節出来ているに違いない。

その点、僕はとんだニワカ歯医者通いだ。そんなんでよく歯医者に通っているわね!!と僕の心の小沢真珠が笑っている。ここは貴方のような人が来るところではなくってよと言った具合だ。

 

全然歯医者とは関係がないのだが、左右が咄嗟に判断出来ないので「ちょっと顔を右に倒してください」と言われて思いっきり左に顔を向け「反対ですね」と優しく諭されたりもしている。別にこれは慣れっこなので構わないが、右も左も分からねぇ上に歯も汚ねぇとなれば生きている資格のようなものを疑われていてもおかしくない。

なんとなく今日の歯医者のお姉さんの力加減が妙に強かったのも「こいつ、多分心は原始人だからこれくらいがちょうどいい」と思われた可能性がある。

 

ついでに「こいつ心が原始人だから」と甘く見られたのか分からないが、急に高い歯磨き粉(税込み1680円)を「私も使ってるんですよ~」と言うお決まりの呪文と共におススメされた。

「誰が買うかよ…」と普段なら思うのだが、その時の僕は右も左も分からねぇ上に歯も汚く、痛いの一言も素直に言うことが出来ずに右手を岩のように動かさない分際で心の中で「これが終わったらすぐに一階のケンタッキーでニンニク醤油チキン買ってやるからな!!」と悪態をつきまくっていたクソ嘘つき野郎である。

その上で乾いた笑いと共に税込み1680円の歯磨き粉の話を無かった事にしては「歯の一つも満足に磨けない癖にそういう処世術だけは身に着けているのね。ははぁ~ん、汚れているのは歯だけじゃないってわけ?」となってしまう。

おまけに「今はどんな歯磨き粉使ってらっしゃるんですか?」と言う質問に、いつものように「まぁ…普通のです…」と一つも盛り上がらない返答で会話を打ち切ればよかったものを、妙な所で小心者と言う悪癖を発動した僕は素直に「なんか…炭が入ってるやつです」と言う恥ずかしい告白をした。

歯が汚い分際で、無駄に意識の高そうな「炭の入っている歯磨き粉」を使っているなんて親にも言えない事実である。

別にこだわって買ったわけじゃなく、歯磨き粉を買いに行った時に「スミガキ」と言う商品を見つけて「なにこれおもしれぇ」と適当に買っただけなのだが、多分向こうからしてみれば、わざわざ炭が入ってるような歯磨き粉、好んで使っているに違いないと思ったのだろう。

「気に入っているのかもしれませんが、例えば朝は炭の入ったやつで磨いて、夜は税込み1680円の歯磨き粉にするとか」と言うトリッキーすぎるおススメの仕方をしてきた為、こだわって炭の入った歯磨き粉を使っていると思われるのが死ぬほど嫌だった僕は「こだわってるわけじゃないんです!!歯磨き粉なんてなんでもいい!!」と言うことを伝える為にその場で即座に「買います。受付で買えるんですか?」と聞いてしまい、まんまと税込み1680円の歯磨き粉を買ってしまった。

 

税込み1680円の歯磨き粉を使ってまで歯を磨いているとなれば、もう…本当に趣味と言ってもいいだろう。

僕は自分磨きが趣味の男だ。

 

それはまぁ、この際いいのだが次の予約日が10月なので歯を見られた時に「こいつ…税込み1680円の歯磨き粉を買った癖にこれ?」と思われたらどうしようと怖くなっている。

「まぁ、こいつも頑張ってたけど、俺の口の中で元気に暮らす菌はこんな歯磨き粉に負けませんよ(笑)」と言うしかない。

もしかしたら税込み3360円の歯磨き粉が出てくるかも知れないが、そうしたらもう戦争だ。

自分磨きとは長く苦しい戦いなのだ。