お前の葬式

どんな老後を過ごしたい?

 

これがはてなブログさんが提示する今週のお題だ。

なんて残酷な話題を振りやがる、こいつには血も涙もねぇのか!と思ったが「はてなブログ」とか名乗るぐらいなので「2000万ないから死にます」と虚無の瞳で答えられても「よくわかんなぁ~い」的な…コジコジ的な返答が出来るのかも知れない。

 

2000万無いから死ぬ奴で溢れ変える日本だが、2000万持ってない上に酒の呑みすぎで早々に死にそうな奴が出てきた。絶望を前に死を迎えるのだから、久しぶりに日本に明るいニュースがやってきたと言う所だ。しかもお前らの大好きなロクデナシである。

日本を心が一つになり渋谷のスクランブル交差点で拍手喝采、トラックの一つや二つ横転どころかパンジャンドラムの様にゴロゴロ転がって行く事だろう。

 

一応、肝硬変になってからソイツは多少我慢してたのだ。炭酸にレモン汁をぶっこんで呑むと言う完全に「…時間の問題だ」と確信出来てしまう飲み物をひたすらに呑んではいたのだが、我慢は我慢である。

それが気がついたら「ただの炭酸レモン水」だった筈の飲み物が「レモンサワー」に変わっていた。これが下町マジックである。下町スラムに住む限り決してアルコールから逃れる事は出来ないのである。

素人共から「自分で勝手に飲んでるんだろ!」と言う野暮な突っ込みがされるのが目に浮かぶようであり、イチイチこんな世界の真理も分からないベイビーに丁寧に答えてあげるのもなんなのだが、ではそんなお前に質問です、お前はウツボカズラに捕食された虫に「お前が勝手に突っ込んだんだろ」と言いますか?はい、言いませぇん。

捕食されているのである。アルコールに。つまりこの場合アルコール先輩ぱねぇっす!!とアルコール先輩の強さを褒め称えるべきであって、負けた人間を貶めるような真似をしてはならないのだ。どれだけ強い心を持ってしても負ける時は負ける。人間とはそういう生き物なのである。まずはそれを認める所から人生は始まるのだ。

 

その肝硬変になりながらもアルコールに負けた50歳バツ3肉眼で見えてる範囲では1児の父であるおっさんがどうなったかと言うと、まぁ入院した。本当にこの世は基本に忠実に回っている。いつでもキチンと腑に落ちる。

まだ死んでないし、すぐに死ぬと言う事もないっぽいが、このままアルコール先輩に敗北を続ければまぁもって1年2年であろう。

そこで僕は即座にこの速報を持って仲間達の元へと走り、満面の笑みで「入院したって!!」と告げた。下町スラムは本当に都会の田舎なので既に全員にその情報が知れ渡っていたのだが、それならそれで話が早い。やるべきはトトカルチョである。

人の幸せ不幸せ。全てを食い物にして笑う事が下町スラムの正義である。誰かに悼んで貰える葬式をしたきゃ芸能人になるんだな。

とにかく「こいつがアルコール先輩に勝つか負けて死ぬか」を賭けたのだが、見事に全員負けて死ぬと言う回答を叩き出したので賭けは不成立となった。チキン共め。案牌しか選ばない。

まぁ経営している飲食店は売り上げは好調なものの、人手不足が凄まじく日本語が何事もなく通じる従業員の方がマレであり、「あいつは不法滞在者だ」と言う噂がまことしやかに囁かれる中国人や、「胃が腐ってる臭いがする」と言われるベトナム人など、人材も中々に粒揃いである。奥さんからは「あたし死にたい」とラインを送られ、息子は絶賛反抗期である。本人が若い女の子さえいれば幸せと言っているので何も問題は無いのだが、端から見たらお手本のような死んだ方がマシである。

 

余談だが、この息子、高校1年生は僕と結構仲が良く「お父さんみたいな女にだらしない奴には絶対にならない」と熱い決意を語る可愛い男の子であり、初めて彼女が出来た際には大事にしようと思うあまり三ヶ月弱手も握らないと言う赤いスイートピーみたいな真似をして見事にフラれ、ぎゃん泣きすると言うめっちゃくちゃ面白いエピソードを作り出したりしていたのだが、ちょっと目を離した隙に限りなくお父さんに近くなっていた。性格が。人は変わるものである。

昔はマインクラフトと言うゲームでなんかすごいお城を作りたいとかなんとか無邪気に語っており、よく分からない僕は適当に返事をしていたのだが、この分だとお城より先に子供が出来上がりそうである。

 

話を戻すが、とにかく我々下町スラムサミットに置いて死ぬ事が予言されたおっさんであるが、賭けの種にも使えないんじゃつまらんと言うことで肝硬変の事は一旦置いておく事になった。

議題は本当に死んだらどうするか?である。

とりあえず、レモンサワーを死体にぶっかけるのは確定した。

次に誰が不倫相手の女役を演じるか?と言う所であり、つい数ヵ月前に旦那が死んだばかりのお誂え向きの女に矢が向いたのだが「いくら寂しいからってアレと付き合う女と思われたくない」と言う本人からの強烈な反抗により矢が折られた。

不倫相手の一人は我々も知っている人で、結構いい性格をしてるのであいつは呼ばなくても来るだろうと言う予測は立てられているのだが一人じゃパンチが足りない。もう一人必要である。

そこで、思い出したのだが、この50のおっさんは僕が19才くらいの時に酒の席(飲んだとは言ってない)に置いてキスをかましてきた僕のファーストキスの相手であった。

誰とキスする事も無かったモテない不細工が、おふざけで当時45ぐらいのおっさんにキスされただけの話であり、全くBL的なアレでは無かったのだが、キスはキスである。ノーカンには出来ない。ここは僕が行くべきだなと言う事になった。

黒い手袋をして献花へと赴き、棺の前でおもむろに手袋を外すとテラッテラの赤いネイルが出てくるのはどうか?と言う案が出て、「ネイルもやれるのよ私」と謎の自信を見せるエステティシャンが鼻の穴を膨らませながらやる気を出してきたのでこれが可決。

後は僕が適当に橋田ファミリーに入団出来そうな演技をした後、木魚に合わせて夢破れてを歌えば完璧である。

 

問題は僕が喪服を持っていないと言う事である。チャランポランな人生を歩んできた為、スーツの一着も持っておらず、友達の結婚式にもGパンで出向いた。

別に葬式もなんか黒っぽい格好ならなんでもいいような気がするのだが「テラッテラの赤いネイル」を魅せるとなれば、絶対に喪服の方がいい気がする。最悪僕は演技いらないと思っているのだ。なんか気丈な態度で背筋をピンと伸ばし、赤いネイルだけを印象づけて去る。これが浮気相手の中のナンバーワンの気品と言う奴であろう。

その為にはチャラチャラとGパンにスニーカーで絶妙なビートを刻みながら献花ではダメなのだ。絶対に喪服が必要だ。

しかし今はネット世界のイケメンをこの手に掴むべくガチャをするお金が必要なので喪服なんて買っている場合では無い。まぁ今すぐに死ぬと言う訳ではないだろうから先伸ばしにするつもりであるが、出来るならいい感じにイケメンがピックアップされてない時期に空気を読んで死んでほしい物である。

 

残される息子と奥さんが可哀想と言う、常識人ちっくな話もでかけたのだが、そもそも家が奥さんの持ち家であり、奥さんの実家が割りと金持ちなので金の心配はない。息子は絶賛反抗期だし、そもそも高校生になってまで父親がいないとどうこうって話も無いので、後は気持ちの問題になるが、その当の気持ちが問題ない事は確認済みなのでやるっきゃねぇと言う話になってしまった。

明らかにゴールの決まった話題であり、軽妙なパスワークによってシュートを決められると言うチームワークの良さを遺憾なく発揮した八百長ではあったが、結論は結論である。もはや変えられない。

もしも僕が死ぬ事になっても下町スラムサミットの連中にはなんとしても隠し通したいと思っているのだが、情報が一瞬で出回る田舎なので恐らく無理だろう。

せめてスベらない葬式にしてくれる事を祈るばかりだが、年齢的に考えれば僕が死ぬ前にあいつらが全滅する筈である。それはそれで寂しいので僕もガンガン酒を呑んでいこうと思う。

すぐに追い付いてやるからな。待ってろよ。