流れる血は同じ色

決戦の時は来た。

 

町中の至る所に「もみの木」と呼ばれるツリーフラッグを立て、リア充軍、非リア充軍に分かれて守ったり燃やしたりするクリスマスウォーズの時期である。

国を挙げての企画の為、当然祝日、仕事なんてしてる場合ではない。

 

そんな風に非リアの立場からも参加出来るようになった素敵なお祭りクリスマスであるが、真にイケてない奴は「もみの木を燃やす」「カップルを妬む」と言う行動にすら出れない為更なる限界集落化が進むだけとなった。ツイッターで生き延びれる奴等は所詮「今、何してる?」と言う「虚無」としか答えようのない質問に1秒に一回のハイペースでバチボコ回答出来るファッションコミュ障である。

あぁいう奴等は易々と非リア田舎ディビジョンから脱出した挙げ句「うちの田舎って近くにコンビニなんてねぇからさ~」等と、「あたいの彼ピってホントダメで~」と愚痴に見せかけたノロケを延々カマすタルい女みたいな事をし始めるのだ。

 

全然関係ないのだが、昔なぜか僕をフォローしていた車アイコンの全く知らない奴がいたのだが、気まぐれで覗きに行ったら、常時「おはよう」「おやすみ」「ご飯」「飲み会」「おはよう」「お昼」「おやすみ」「おはよう」「ご飯」「おやすみ」とだけ呟き続ける世にも奇妙な光景が広がっており、なんかすごく可愛いなと思ったのだがいつの間にかフォローが外れていて悲しかった。多分今も限界集落で静かに「今、何してる?」と言う質問に答え続けてる事だろう。元気でやっていて欲しい。

 

同じように限界集落で暮らす僕がクリスマスウォーズを静観し何をしていたかと言うと、ケーキを食べていた。

毎年ホールケーキを5個も6個も購入し、内二つを僕が一人で黙々と食べると言うのが我が家のスタンダードクリスマスなのだが、最近甘いものがあまり食べられなくなっており、今年は5個に抑えた。

内二つのケーキの引き取り担当が僕だったので、結構忙しかった。

家を中心に反対の位置にある店にそれぞれ取りに行かなければならなかった為、例の歩数計で測ってみた所、2万歩歩いていた。これでケーキの分はCHARAだ。そう考えると優しい気持ちになれる。

 

僕は、24にもなって「クリスマスのケーキはやっぱりイチゴの生クリームのケーキにサンタさんが乗ってなきゃダメでしょ!」と言うスイートブレインを捨てきれていない為、当然今年もさして美味しくないサンタが乗っているのをチョイスした。

クリスマスケーキと言えば、あぁで無ければならない。なんか、無駄にシックにシンプルな奴とかはダメだ。気取りすぎだし逆にしゃらくせぇ。

クリスマス!なんて恥ずかしげもなくハシャごうと言うのにケーキを大人っぽくして逃げ道を確保しようなんてダサい真似をするぐらいなら死んだ方がマシだ。もしも僕が「今年はクラシックショコラだな…」等とほざき始めたら即座に右頬をぶん殴った後、もみの木に磔にして火刑に処して欲しい。クリスマスを道連れにしていく。

 

サンタが乗ってるのは最低条件だが、生じゃなくてバタークリームでもいいかな、とは思っている。

と言うのも、僕が物心ついた時には既にバタークリームは絶滅の危機に瀕して…いたのかどうかは定かではないが少なくとも実際に見かけた事がなかった。ケーキのパンフレットも毎年あらゆる店から徴収して来るのにバターケーキの文字は見かけない。

ちょっと昔の漫画とかで単語を見つけてなんとなく「美味しそうだな」と思い、それが昔のスタンダートだったのであれば、一回ぐらい食べてみたいなと10年ぐらい前から思っている。

思いすぎる余り食べたことが無い癖にバターケーキ美味しいよねと言いまくると言う、期待を込めて星5ですと言うアマゾン糞レビューみたいな真似までした事が幾度となくある。

ある日突然「バターケーキなんてゴミ。時代は生クリーム」と僕が言い出したら全てを察して欲しい。

 

そんな訳で今年も一人でホールケーキをバクバク食べようと思っていたのだが、誰の入れ知恵を受けたのか母が突然「一人でホールケーキを食べるのはおかしい。5個もあるのだからそれを全員で分けあえばいいのでは?色んな種類を食べられるし結果として量的にはホールケーキと変わらない」と主張し始めた。やはり平成最後のクリスマスは荒れるものなのか。

ホールケーキ過激派として断固拒否、ホールケーキを抱えてトイレに駆け込み鍵をかけて籠城、徹底抗戦の構えを見せてもよかったのだが、母親の手には包丁と蝋燭が握られており、籠城作戦に出た所で即座に火攻めに合い、堪らず飛び出した所を滅多刺しにされて死ぬのは目に見えていた為、両手をあげて降参…ではなく賛成をした。クリスマスと言うホーリナイッを生き抜く為には折れる事も必要なのだ。

我が家のトイレには窓がついているのだが、鉄格子が嵌められている為逃げ場がなくそもそも籠城に向かないと言うのもある。吉良吉影の理想を体現しているかの様な死んだような凪としか言い様の無いぬるま湯人生を送っているのに死に際だけ第六天魔王なんて冗談じゃねぇ話である。

 

従来と違う事をするとやはり新しい発見がある物であり、仲良くケーキを分けた結果、弟にトナカイ、僕にはサンタが来たのだが、二人とも体と頭を真っ二つに切断する食べ方をしていた。

流石兄弟、血は争えないものである。殺し方までよく似ている。二人とも、生首の方を後に残していた。24年も生きて初めて気づく弟との共通点にホクホクした気持ちになり、クリスマスだけど寒くない…今ならローストチキンを食べる幻想が見えるのでは?と思ったのだが見えなかったし、抱きつこうとしたら拒否られた。現実は厳しい。そしてやはり寒い。

 

僕には別にアップする訳でも無いのに「インスタ映え~」とほざきながら写真を取る悪癖があるのだが、いつものノリでそれをやったら弟に「あ、お前…そういうタイプか」とすげぇ低い声で呟かれて悲しかった。違う!そもそも僕はインスタをやっていないんだ!と鼻息荒く主張し、なんとか分かって貰えたのだが、自分でもびっくりするぐらい必死な弁明であった。

 

「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」と言うタイトルのBL漫画を持ってウロウロしてる所を見られるのは余裕なのに「インスタに写真を投稿してる」と思われるのはマジ勘弁となるとは思わなかった。

ついでに弟がインスタを敵対視してるとは思わなかった。

血は争えない物である。バカにする対象までよく似ている。24年も生きて初めて気づく弟との共通点に以下省略だ。これはもしかすると弟もBLが好きなのでは!?と思い、意気揚々と話を振ってみたのだが結果はお察しだ。一つも膨らまなかった。

 

そんな弟は最近社会人一年目として初めて忘年会に出席した所、誰かに間違えて革靴を履かれて帰られると言う災難に遭遇したらしい。

そのバカの革靴を試しに履いてみた所、普通に履けたので「履けるから大丈夫です」と答え帰宅しようとしたら「あいつは変な奴という扱いをされたのが遺憾」との事だ。

 

血は争えない物である。これで、今は亡き父も含め、母、兄、僕、弟、祖母、祖父、叔母、全員が誰かしらから「変なやつ」扱いされた事になる。

「ついにお前も変なやつになったか…」と感慨深く話しかけたら「履けなかったら困るが、履けたのだから何も問題はなかった。俺はおかしくない。」と主張していた。

我が家の全員が通った道である。弟がいつ諦めるのかが見物だ。

ただ、容赦なく「お前おかしい」と言いはなってくる輩が周りにいまくった僕と違って、弟は多分優しい人に囲まれていると思うし、そう思いたいので、何食わぬ顔で「自分普通」と思いながら生きていくような気もする。

羨ましい話である。まぁ僕も一応世間様に合わせて「はいはい、ぼくはおかしいで~す」とおちゃらけてはいるが、内心では「僕is普通」と思いながら日々を生きているので、やはり兄弟。

 

血は争えないものである。