ガラクタとポンコツの決断

眼鏡を新しく買おうかと企んでいた。

と言うのも、今僕が装着している眼鏡はいつ買ったんだかも正直覚えてないぐらい前に購入したおんぼろであり、眼鏡拭きも眼鏡ケースもとっくの昔に紛失、歴戦の戦士の背中かってぐらい細かい傷が無数についており、いくら洗ってもその無数の傷が一瞬で汚れをキャッチ、視界を濁してくれる素敵眼鏡なのである。

また、持ち主が糞ほどだらしない性格の為、踏まれたり潰されたりプレスされたり、酔っぱらった持ち主が家の中で盛大にこけてどこに行ったのか全く分からなくなるぐらい吹き飛んだりと、タイヤキと一緒に逃げ出してしまうんじゃないかというぐらい散々な目にあっており、ネジの部分もガッタガタ、持ち主の心を表すように歪んでしまっている。

ちょっと顔を動かすだけでずれる為、30秒に一回のペースで「クイッ」と直さなければならない糞仕様になっていて、インテリでもイケメンでも無いのに執拗に眼鏡クイッを世間様に披露しなければならない恥ずかしい事態にも陥っており、「今の眼鏡クイッは別に何かのアピールではありません」と一々釈明したくなると言う、メンタルのヘルスにとって大変よろしくない呪われし眼鏡を新しくしようと言う計画であり、我ながら「むしろ今までよく使い続けて来たな」と言う感じなのだが、糞ほどだらしない性格なのでめんどくせぇとなっていたのである。

メンタルのヘルスによくないと言うだけで、見えるのだ。普通に。とてもよく見える。

あまりにもよく見える為、これがデフォルトなのでは?と勘違いして、眼鏡をかけているのに眼鏡を探してしまったりするぐらいよく見え、眼鏡の役割はきちんと果たしているからいつまでも引導を渡してやることが出来ずにいたのだ。

僕は洋服も「恥部が隠れてればよくない?」と思うぐらい恥ずかしい性格をしているので、正直あの呪いも別に痛くも痒くもないのだ。ちょっと繊細な振りをしてみたかっただけだ。

 

眼鏡からしたら冗談じゃねぇ話だろうが、僕的には長年共に戦ってきた戦友をそんな簡単に乗り換えることなんて出来ないよ!と言う気持ちも、まぁ無いが、メンドクサイのでダラダラとダラシナさが具現化したシャドウレンズを常に身に付けてきたのだが、最近になって例のヒプノシスマイクがなぜか眼鏡市場とコラボしたのである。

 

タニタ、スイパラ、ファミマその他無数のあれやそれや、隙あらば何とでも精神直結コラボをするコラボビッチヒプマイさんなのでもはや眼鏡市場とコラボした所で微塵も驚きはしないのだが、やはり、ようやりますわ、いやはやお盛んですなぁと言う気持ちにはなった。

まだそのコラボも終わってないのにシャワーも浴びずに次の所にコラボしに行ったのも目撃したのでおじさんはちょっと心配な気持ちになっているのだが、まぁそこはいい。

 

とにかく眼鏡市場とコラボしたのである。

眼鏡市場で3000円分の商品を購入すると、ヒプマイバトルCDのジャケットと同じデザインの眼鏡拭きが貰えると言う訳の分からないキャンペーンであり、「イケブクロヨコハマ」デザインの物は池袋と横浜、「シブヤシンジュク」デザインの物は渋谷と新宿、「ヨコハマシンジュク」デザインの物は横浜と新宿と、それぞれの地域にある眼鏡市場にわざわざ出向かなければならないと言う謎の縛りプレイまで課せられているのだが、このニュースに僕は色めき立った。

時がきた。それだけだ!と、控え室とお茶の間を爆笑の渦に叩き落とせるだろう頓珍漢な決意を胸に秘めてしまったのである。

 

しかし、一々クイッしなければならない眼鏡に嫌気が差していたのも事実でありヒプノシスマイクがその背中を押してくれるなら、ここは一つ広い大空へフライアウェイしてみるのもいいのではないか?例え、普通に落下して死ぬのだとしても。

そんな訳で、眼鏡を買おうと思っていたのだが、眼鏡市場さんを甘く見ていた。

高いのである。一番安い眼鏡でも「12600円」であり、そっからどんどん上に昇っていく値段設定であった。すげぇチェーン店みたいな奴だと思って舐めてかかっていたらこれである。5000円とかで済ませようと思っていたのに、とんだ掛けぬ眼鏡の皮算用であった。

一応、眼鏡市場さんの理念とやらを読んでみたところ「5000円だ、8000円だ、安価だと謳った所で、結局レンズ代だ視力検査代だでこんぐらいの値段になる。もっと取られる所もある。うちはコミコミで12600円~なのだ。これは安い。買いだな。」と言うような事が書いてあり、なるほどね?と思ったのだが、眼鏡をかけている知り合いが腐るほどいるので調査して見た所「いや、5000円で買ったけど…」的な意見が頻出、ちょっと眼鏡市場さん?と言う感じになってしまった。

ちなみに最安値を記録したのは、我がマザーの「あたしこれ3000円」であった。

流石、大学にも行かない安い息子を産みまくっただけの事はある。

 

自分の目でも確かめて見ようと近所の眼鏡屋を覗いたりもしたのだが、商品棚には丁寧に「5000円(レンズ込み)」と書かれた値札が置いてあり、ちょっと眼鏡市場さん?と言う感じになってしまった。あと一回なったら問答無用で焼き討ちである。僕の自慢の歴戦眼鏡で太陽光をこれでもかと集めてやる気持ちだ。

ちなみに棚には「お手軽値段の眼鏡。その日の気分に寄って付け替えたりする用の眼鏡としてお勧め」と言う理解不能な一文が添えられており、そんなオシャンティー糞野郎はコンタクトレンズに伊達眼鏡を着用するしゃらくせぇコンボを決めてくるんじゃねぇのか?と思ったが、よく考えたらジャパニーズはなんでも素材本物主義、化粧はナチュラル!整形は化け物!バナメイエビは犬にでも食わせておけ!と言う貴族の集まりであった。

真の眼鏡愛好家は本物しか認めないのであろう。度の入ってない眼鏡等ガキのオモチャ、そんな物でお外を歩こう物なら一瞬で黒服メガネポリス達に両脇を掴まれ地下送りである。

 

誰もいないのを確認してから、出来心で試着をしてみたのだが、よく見えなかったのでイマイチよく分からなかったし、「…見えねぇな…」と思っている内にどこからともなく風が吹いてきた為「…店員が来る!」と察知した僕は慌てて階段を降りてその場を後にした。

とにかく、5000円で眼鏡は買える。仮にあそこから12600円にはねあがるとしたら「フレームとレンズで5000円、眼鏡拭きと眼鏡ケース、それから視力検査代で7600円、計12600円になります」と言うびっくり計算になってしまう。レイトン教授も頭を抱える謎計算式である。

ヒプノシスマイクコラボの眼鏡拭きを手に入れる為だけにわざわざ眼鏡市場で眼鏡を購入するとなると、眼鏡拭きを7600円で購入すると言う事になる。既存イラストの眼鏡拭きに7600円。流石にあまりにあまりである。

しかし、同時にめっちゃ面白いな、とも思った。眼鏡拭きに7600円である。きっと爆笑が取れる。一回しかウケが取れない代物に7600円はどうかとも思うが、面白くない奴から淘汰されて行く、ノリ至上主義ニッポンである。1万切ってウケが買えるなら…安い?と言う全員ぽんこつの脳内議会が繰り広げられていたのだが、結論として、耐えた。

 

まだコラボ自体は続いていたと思うが、もう新宿もしくは横浜まで足を運ぶ余裕がある日が僕には残っていない。昨日がラストチャンスだったのだ。

僕は、耐えた。眼鏡市場のコラボには、乗らなかった。

そして、4000円分一人でビールを飲んだ。超美味しかった。最高だった。同じ一時の快楽ならこっちの方が遥かにハッピーであると確信した。

ただ、なんとなく悔しい気持ちもあるので眼鏡市場のサイトにある、ヒプマイコラボキャンペーンページで見つけた脱字を指摘してやろうかと思っている。

 

そんな訳で、未だに眼鏡クイッをしまくりであり、これを書いている最中にも数えきれないぐらい眼鏡クイッをしまくった。

眼鏡からしたら冗談じゃねぇ話だとは思うが、もう少し糞ほどだらしねぇ持ち主の元で老体に鞭を打って頑張ってもらう事になったのでこれからも眼鏡クイッをしていくと思う。

決してインテリを気取っている訳でもイケメンぶってる訳でもないので、眼鏡をクイッとしまくる僕を見付けても、意気揚々と平手打ちをするのはやめて「眼鏡殿も大変でござるな。心中お察ししますぞ」と眼鏡を労ってやってほしい。