あの光を追って。

知人から唐突に「甘いものを食べに行こう」と言う誘いを貰った時があった。

原文は確か「スイーツを食べに行こう」と言うしゃらくせぇ物であったが、その知人も別に確固たる意思を持って「スイーツ」なる単語をチョイスするような人物ではない為、「スイーツ」の文字を見た瞬間に構えたライフルをそっと下ろし「いくいく~」と返事をした。

 

普段から僕が接しているような、始まりもしないのに終わり続けるオワリビト達から甘いものを食べに行こうと言われたら、「ごまだれか田楽味噌か…」と疑う所だがこの知人は立食巻き寿司パーティーとか言う、この世のどこで開催されているのかも不明な謎のパーティーに出席したりしている強者の為、期待が持てる。

その後、新たに「和風スイーツって大丈夫?抹茶とか」と言う連絡が来た為、2秒で「大丈夫だよ~」と気軽に返した。

この時、僕が想像していたのはクリームあんみつとか抹茶パフェとかそういう奴だったのだが蓋を開けてみたら「抹茶」だった。まさかの原石。見事な騙し討ちである。完全に油断していた。

和風スイーツの「和風」をあの女はどういう気持ちで打ったのだろうと今でも疑問なのだが、とにかくフレーバー的な物を想像してのほほんと浅草に向かった僕は落とし穴に突き落とされる羽目になったのである。

よく考えたら「じゃあ浅草に集合ね」と言われた時点で、「これは孔明の罠だ!」と気づけた筈なのだが、僕は通りすがりのおっさんに話しかけられて「ちゃんと返すから交通費を貸してほしい」等と言われ、マジで金を貸した挙げ句住所まで教えてしまう、えげつない程ピュアなイノセント野郎の為、奴の言葉も無邪気に信じてしまったのである。

「抹茶味」と「抹茶」は全然違う。グリーンティーハーゲンダッツはバクバク食えても、結構なお手前は分からないのだ。外国人が闊歩する和の本場浅草で抹茶を頼んでおきながら、おいしゅうございましたも無しに残すような真似をすればすぐさま浅草寺が合体ロボットへと変形しレーザー光線を放ってくると言うのは有名な話の為、「この女…俺を殺す気で…」と歯噛みする羽目になったのだが、ありがたい事に連れていかれた落とし穴の中には「チョコパフェ」と言う、和では無いがそこはかとなく昭和ジャパンの香りがプンプンする救済メニューが置いてあった為に事なきを得た。

抹茶と団子をおしとやかにかっ食らういけすかねぇ女を前に、チョコパフェとクリームソーダを並べてニッコニコする24歳、本当にピュアである。精神年齢は5才だ。

チョコパフェは「生クリーム、アイスクリーム、チョコクリーム」だけで構成されているガチの奴で、そんじょそこらのコーンフレークなんぞにすがる腰抜けパフェとは次元の違うストロングスタイルに僕も大満足、命拾いもして万々歳と言う結果になった。

神様は見てくれているものである。

 

知人と別れた帰り道、ファミリーマートを覗いた。ヒプノシスマイクとコラボして、対象商品2個を買うとクリアファイルをくれると言うキャンペーンをやっているのを思い出したからだ。僕の家から徒歩5分のファミリーマートは残念ながら対象外であり、「まぁ…クリアファイルとか欲しいもんでもないしな」と諦めていたのだが、なんとなく機会があれば手に入れて置きたいと思って入ったのだがこれが良くなかった。

コラボキャンペーンはやっていた。但しクリアファイルと交換出来る引換券が、シンジュクの分だけ綺麗に無かった。

惜しくも手に入らないとなると、欲しくなるものである。そして、探してみるとファミリーマートってめっちゃくちゃ多いのである。「なんでこんなにあるの?」とママや池上先生、青空電話教室まで片っ端から聞いて回りたいぐらいめっちゃくちゃあるのである。

よもや自分がこんなにファミリーマートに囲まれて暮らしているとは思わなかった。

そんな訳で帰りがけに見かけたファミリーマートに片っ端から入店していったのだが、キャンペーン対象外店舗と、キャンペーンをやっていてもシンジュクの分のクリアファイルだけが無い店舗と言う散々な有り様だった。無理なく入店した5店舗程でそんな結果だったので、精神年齢が5才の僕は完全にムキになった。

帰り道から完全に外れたルートを爆進し、ファミリーマートを見つけ次第襲撃していったのである。お陰で、シンジュクの引換券を見つけたのだが、レジに向かってみたらシンジュクだけが無かった。じゃあ引換券もしまっておきなさいよなんなの貴方意味が分からないわ2回程お死にになったら?と僕の中のデヴィ夫人が貴婦人のビンタをかますべくウォームアップを始めたのだが、無いものは仕方ない。悔し紛れにシブヤのクリアファイルだけをゲットして退店したのだが、なにしろ完全にムキになっているのである。全然意気消沈しない。

心の炎はめらめらと燃え上がり織田信長はもちろん、徳川家康も殺せそうである。もちろんホトトギスも皆殺しだ。鳴く暇も与えない。

 

今ぐらい寒ければ「でも…寒いし…」となったと思うのだが、生憎その時は11月30日、とても過ごしやすい気温であった。

そして、皆大好きファミリーマートはめっちゃくちゃあるのである。

「ここのファミリーマートにも無かった…」と、シブヤのクリアファイルを片手にうなだれて店を後にしても、ちょっとキョロキョロしてみると、白と緑のライトが光ってるのが見えるのだ。「あれ?あれ、ファミリーマートじゃない…?」となり、蛾のようにフラフラと家から反対方向に引き寄せられていってしまうのだ。

完全に罠である。このまま突き進み続ければその内崖から落ち、下で待ち構えている巨大な蛇に丸呑みにされると分かってはいたのだが、なにしろムキになっている5才児である。今さら歩みが止められる訳がない。

罠と分かっていても「ファミリーマート!入らずにはいられないっ!」なのである。

 

しかし、どこに入っても残っているのはヨコハマとイケブクロ、ヨコハマとイケブクロ、ヨコハマとイケブクロ、たまにシブヤと言う絶望状態であった。

シンジュクの人気を舐めていた。奴等ファンの怖さをスイパラで散々味わったと言うのにこの体たらく。5才児なので学習機能チップがまた搭載されていないのだ。賢さが15にも届いていないので親の言うことすら聞かない。

 

結局、途中「おなかがすいたよう」と入ったマックで「ポテトは現在完売しておりまーす」と叫ばれた事で「神に見放された…」と絶望した僕は「おうちに帰ってドーナツ食べるお!」と諦めてしまったのだが、悔し紛れに手に入れたクリアファイルは現在絶賛もてあまし中である。

そもそも近所のファミリーマートに無かったからと他の店舗まで足を伸ばさなかった理由は「別に欲しいものじゃなかった」からだ。それを妙にムキになってしまったのが本当に愚かだったのであり、ファイルする物なんて一つも持っていない5才児には無用の長物であるとして、多分母親辺りが先回りして全て回収していったのだろう。親はいつだって子供を見ている。

 

最近、わけあってツイッター纏めみたいな物を見ていたら、このクリアファイルの話題が出ており

「キャンペーン開始の7時と同時に入ったのにもう無かった」

「女子高生が全部買い占めていった」

「店員さんに「すごい人気ですけどなんですかこれ?」と聞かれたので布教した」

等と言った都市伝説じみた話がワラワラ出ており、改めて感服した。その割りにヨコハマとイケブクロはマジで結構残ってたのだが、僕が住んでる場所が田舎と言うことなのだろうか。

ちなみにテンバイヤーさんが一瞬で転売を始めたらしいので手に入れようと思えば恐らく手に入れる事が出来る。中々どうして簡単には諦めさせてくれない物である。

 

…買わないけど。