幸福の王子、まだまだ。

人様のガチャを回した。

ソーシャルゲームの、デジタルガシャポンを「回してもいいよ」と言われたので「え!?いいの!?ありがとー!」と言いながら無邪気に回したのだが、別に僕は「あぁ~ガチャ回してぇ~回したくて堪らねぇ~」とシャブやってんのか的な呟きをしていた訳でもないし、ガチャを回したいと言う欲望に取りつかれた事も特には無いのでなんでお礼を言ってまで回してしまったのかは不明である。

 

とにかく、優しいそいつのガチャを意気揚々と回したのだが、まさかのSSRとか言う最高レアリティのイケメンが登場してしまった。カス当たりをしても気まずいし、そいつが喜ぶ分には僕も嬉しいので悪いと言う事は無いのだが「…なんで?」と言う気持ちで一杯だった。釈然としないとはこの事か、と24才にして初めて実感出来た気がする。ありがとう、そいつ。

その後、そいつがやっている別のソーシャルゲームのガチャも回していいよとの事だったので、ありがたく回させて頂いたのだが、そこでもSSRの美少女を見事に引き当ててしまった。

自分が怖い。別にそいつがどうしても欲しいと言うキャラでも無かったようだが、見事その期間限定のSSRを全員揃える事に成功したようだ。

カス当たりをしても気まずいし、そいつが喜ぶ分には僕も嬉しいので悪いと言うことは無いのだが「…なんで?」と言う気持ちで一杯だった。釈然としないとはこの事か、と24才にして初めて実感出来た気がしていたが、これが本物の釈然としない、なのか。と認識を新たにした。危うくガキのママゴトみたいな「釈然としない」を心の辞書に登録する所だった。やはり人間、一回や二回の出来事で物事を決めてはいけない。「釈然としない」とはどういう事かを僕の脳裏に焼き付けた挙げ句、人生において大切な事を教えてくれてありがとう、そいつ。

 

しかし悔しかったので、僕はその場で自分のゲームに課金、そいつに回させたのだが、見事なカス当たりであった。推しは愚か高レアリティにもそっぽを向かれていた。唯一出た高レアリティは10連ガチャだから一枚は確定で出るよ、と言う一匹も金魚を掬えなかった際にお情けで親父がくれる死にかけのカス金魚みたいな有り様である。

釈然としないとはこの事か…。たった1日で釈然としないとはどういう事かを嫌と言う程思い知らされた。もう完全に理解した。だから、もういいんだ。釈然とさせて欲しい。

わざわざそいつに課金の仕方を教わってグーグルプレイカードを購入、「このコードはスペース入れるのか?」とかアホな事を聞きながら購入したダイヤが全て虚無へと還った瞬間に生をお代わりだ。追加課金も辞さない。550円で幸せになれるなんてお酒はすごい。

 

ちょっとそいつのガチャでいい結果を叩き出しまくったからと言って調子こいてはいけなかった。神に愛されていたのはそいつであって、僕では無いのだ。「俺今キテるわ!マリオで言えばスターだわ!!」等と鼻の穴を膨らませながら主張していたから天罰が下ったのであろう。俺が神でもそうする。

僕ごときが神に愛される訳は無いし、迷惑メール一つ来ない僕に何かがクる事も無い。スターを追っかけて崖から落ちるのがお似合いの野郎が何を勘違いしているのかと言う話である。

 

しかし、どうしても自分は愛されてると言う妄想にはついつい取り憑かれてしまいがちである。僕はおばけが結構苦手で、今でも電気を消さずに移動したりしてしまうのだが、これも自意識過剰の浮かれポンチな脳みそが引き起こす浪費だ。デンコちゃんも激オコである。

誰もがご存じの通り、おばけと言うのは世界中の誰にも愛される一大ジャンル、ホラーで堂々の主役を張る生粋のエンターテイナー様である。ゴースト様が主役のイベントは日本にも海の向こうにも用意されており村や町の枠を飛び越えて国をあげて盛り上がったりしている。トラックも横転だ。

「ここの角を曲がった所で突然出てきたらすっげぇ驚くよな」

「このタイミングで急に後ろに出てきたらマジびびるわ」

と言う人間の心理を完全に理解した上で、きっちり待機、自分の輝くタイミングを完璧に把握して外す事無く顕現なさるその様はまさにプロフェッショナル、ノンフィクションに出演していないのが嘘みたいである。そんなおばけ様が金も払ってない僕なんかを驚かせる為だけにわざわざボロい我が家にお越しになって下さるなんて事が無いのは小学生だって分かりそうな物なのに、自分が愛されている等と言う烏滸がましいにも程がある勘違いをしてしまう僕は無意味に怯えてしまうのである。

お化け様に休息なんて物は存在しない。最近はデジタルにも精通しており、完全に僕よりもスマホだパソコンだを使いこなしているおばけ様だ。突然フリーズさせるなんてのは序の口、プラウザから戻るボタンを消す、×ボタンを消してページを閉じさせなくさせると言ったプログラムに直接介入する方法まで習得してらっしゃるのだ。文字を大きくするとかその程度の小細工すらおぼつかずに一切使わない僕とはえらい違いである。

きっと血の滲むような努力の末にそのような技術を身に付け、日夜人間を楽しませる為に頑張っていらっしゃるのだろう。ホスピタリティの塊である。

 

それでもやっぱりおばけ様を怖がってしまうし、ガチャもいいのが来るのでは無いかと期待してしまう愚かな人間、それが僕である。

あんさんぶるスターズは現在お正月キャンペーンと言うのをやっており、一日一回おみくじを引いてその結果で色んなアイテムを貰えたりするのだが、大吉を引くとガチャ一回分の石と「星5(他のゲームで言うところのSSR)の出現率2倍」と言う効果を得られるようになっている。僕はこの大吉を三日だか四日だか連続で引いており、つまりキャンペーンが始まってから今まで常に大吉なのだが、ではガチャで星5を引けたかと言うと高速でウインクを繰り返し「察しろ」と言うメッセージを送るしかない。

星3しかでねぇ。

 

僕の運なんてこんなもんである。神様に見向きもされていない。微妙に大吉とか出して期待させてくる分、逆に唾とか吐かれてる可能性はあるがそれもまた「神が俺を見てくれている」と言う驕りに過ぎない。

と、ガタガタガタガタ神がどうだおばけがどうだと語っているのは、こんぐらい長々と自分を納得させにかからないと「そいつが僕の運を吸いとっていった」と言う被害者意識を出してしまいそうになるからである。

あいつが僕の体についていた金やら宝石やらを全部剥ぎ取っていったせいで残ったのはみすぼらしい銅像だけ…。それでも「でもあいつの所ではSSRを出せたんだから…僕はやればできる子なんだ…」と言う希望にスガって懲りずにガチャを回して涙を流しているのだからなんかもうどうしようも無い。

 

あんさんぶるスターズはガチャの他に「イベント」と言うポチポチしまくってポイントを稼ぎ報酬を手に入れようと言う運に頼らないストロングスタイルのカード取得方法があり、僕のような運に見放された幸福のゴリラには大変ありがたい話なのだが、今回の報酬に別に欲しいものは無かった。

欲しいものは無いのに、なぜか僕は課金アイテムをつぎ込みランキングの「そこそこ良いところ」に食い込んでいる。

ポイントを集めて貰える報酬とランキングで貰える報酬は別物であり、多分ランキングで貰える報酬がさして目当てで無いのであれば、ポイントを目的の値まで稼いだらスルーして良いものだと思うのだが…まぁムキになっているのである。

恐らくだが、僕はパチンコとソシャゲーに手を出してはいけない人種だった。

なんか、ムキになってしまう。たった今冷静になり課金アイテムを砕くのをやめたが、心がウズウズしている。

しかし、回りに運を吸いとられる銅像に残された道は、台座から降り自分の足でノッシノッシとカードを取りに行く事だけである。

まだ…まだまだ、課金は出来る…俺は…俺は…まだ…。

 

誰でもいいので、金も宝石も全て持ってかれた銅像から、更に手足をもいで持っていって欲しい。僕が理性を保っている内に…僕にトドメを…そして手を…。