ホコリまみれの思い出
メールが届いたので何かな?と覗いて見たら「そろそろ一ヶ月経つぞ?書かへんのか?なぁおい。書いてみぃひんか?」と言う何の為にしているのか全く分からない催促だった。
そこでえげつない程ピュアな僕は言われるがままに、キーボードをカタカタしている訳なのだが、さて何を書こうか。
はてなブログには「こんなの書いてみたらどうや?」と言う「今週のお題」と言うものがあり、常に画面に表示されていて目障りなのだが、今週のお題は「おとうさんへ」らしい。
現在の時刻は午前3時半である。こんな時間に一人カタカタとスクリーンに向かって死体へのメッセージを書くと言う行為に手を染めると言うのはわざわざ「おとうさんへ」と平仮名で書かれているお題の趣旨に反している気しかしないので、これは却下だ。
ここはむしろお題に真っ向から歯向かい、身内の年上の反対、赤の他人の年下の話をしようと思う。
彼と出会ったのは2ヶ月ぐらい前であり、前世でどのような悪行を犯したのかは定かでは無いが、不運にもこの僕の後輩になると言う最悪な社会人デビューを飾った可哀想な子である。
事前情報として「面接にキスマークをつけてきた」と言うアバンギャルドな情報がもたらされていたので、その時点で繊細なサランラップハートの持ち主である僕は戦々恐々としており、ラップで自己紹介されたらどうしよう?とか髪の毛を洗いながら考えていたのだが結論から言えば全くの杞憂であった。
しかし、ラップで自己紹介こそされなかった物の、「趣味はダンスです」と言う、完全に別次元の存在がご光臨為さったでぇ…と、ケツ捲って逃げるしかねぇとしか思えない申告をされ、おまけにこちらはお天道様に堂々と告げられるような趣味を持ち合わせていないので、半笑いでその場を凌ぐと言う仲良くやれる気がビタイチしない初日を迎えた。
まぁ、なんとなく居ないものとしてお互いを扱っていくのだろうとなんとなく思っていたのだが、意外な事になぜか、なつかれた。
これは自慢なのだが、なぜかなつかれたのである。
はっきり言って、僕は先輩としてはゴミクズな性能をしており、後輩がうっかり物をぶっ散らかした時も、周りの心優しき先輩達が「大丈夫?」と心配する中、一人だけ「ちゃんと掃除しておきなさいよシンデレラ!!」とほざきながら横を通り過ぎると言う、どこに出しても恥ずかしい行いをしたりしていたのだが、やはり面接にキスマークをつけてくるようなレボリューションボーイにはそれくらい恥じらいがない輩が丁度よかったのだろうか。
時間が空けば話しかけてくるのはいいのだが、やはり奴はリア充。
ウェーイ!!みたいなテンションの高さは無いものの、写真フォルダが大量の人間で埋め尽くされており、おまけになぜか「これは一体何が違うのか…?」と思わず口に出してしまうぐらい似たような写真が連続で5、6枚並んだりしている不思議な光景を目の当たりにし、プリクラで撮ったとしか思えない、目が全員五月みどりの様になっている4人組の写真等もそこかしこに並び、めっちゃくちゃキメ顔の自撮りもワンサカあった。
異国の市場に迷い混んだかのようだった。
「いやいや、幽さんだって写真ぐらい撮るでしょ~?」と言われたので、自分の写真フォルダも漁って見たのだが、皆さんご存知のように、「酒とつまみ、酒とつまみ、酒とつまみ、酒とつまみ」であった。当然の様に見返したりもしていない。
一応その場のノリとかテンションで写真を撮るものの、写真の用途、あまり分かっていないのである。
最近、携帯電話を新調するに当たって、大量の写真を確認もせずに消した為、一度たりとも見返されなかった写真も恐らくあの中に大量にあった。
消すために保存してある思い出、哲学である。
しかし、そいつもそいつで話の折りに触れては「写真あるっすよ」と凄まじい速度のスクロールで思い出探査を始めてくれるのだが、結構な確率で失敗していた。思い出ありすぎて見つけられない事案である。
僕の写真フォルダが、無人の思い出廃墟だとすれば、奴の写真フォルダは、行き場を失った思い出が大量に徘徊している思い出ラクーンシティだった。
あれは絶対その内、町から飛び出すし、奴は最後思い出に埋もれて死ぬ。間違いない。
聞かれてもないのに「写真苦手なんだよねぇ」とアピりまくったのが効いたのか、こいつは撮る価値が無いと言う正解にたどり着いたのかは不明だが、今の所は奴に写真を撮られた事は一度も無い。しかし今後、何かの拍子で奴の思い出保存欲が爆発し、僕が逃げきれずに思い出ラクーンシティの中に引きずり込まれる可能性はある。
恐らく、誰に見せる事も無い、無色透明なメモリーとして暫くデータを圧迫した後、適当に処分されるだろうが、最悪セピア色に変わるまで取っておかれるかもしれない。「思い出に刻む人間を間違えた」と、一刻も早く自らの過ちに気づくことを祈り続ける日々が来ないことを願うばかりだ。
そいつとは文明通信ツール、ライーンを交換しており、何かあれば連絡が取れるようになっているのだが、やはり我々「今日は人と一言も口を利かなかった」と言う事が頻発するような退化人類と違い、奴にはなぜか活字で済む所を電話で伝えようとしてくる謎の習性がある。
その時はそいつが寝坊で遅刻をしたのが連絡要因であり、先にラインで活字が飛んできており、僕もそれに対して活字で返事をしたのだが、なぜかその後電話がかかってきた。
遅刻をする原因も、何分後ぐらいに着きそうかも、僕がどこで待っているかも全て先程活字でやり取りしてあると言うのに、なぜ電話がなるのだろう…?と思いつつ出ると、さっきやり取りした内容をそのまま音声で伝えられた。当然全て「圧倒的既知!!」であり「う、うん…知ってる…うん…分かってる…うん…」としか言えず、通話時間30秒である。
その後居酒屋で3時間話した。
普段の友人(仮)関係をネット関連で繋げていると、このような人種と触れ合う機会が全くない為、同じ日本に住む同じ日本人でありながら、全く違う常識が猛スピードで体当たりを仕掛けてくる異文化交流が楽しめ毎日がディスカバリーチャンネルと言う感じなのだが、これが2ヶ月経っても全く慣れない。
いやぁ、全く感覚の違う人と仲良くなるのは結構いいもんだなぁ、色々新鮮だなぁと、柄にもなくポジティブな事を考えたりして、楽しくお喋りに興じたりしていたのだが、最近普通に「口悪いっすね」と身に覚えのありすぎる攻撃を食らった。
「懐かしい痛みだわ…ずっと前に忘れていた…」と思ったのだが、実際は常日頃から言われている為、言われ過ぎて麻痺していた痛みを、思い出させられたと言う感じである。
流石、思い出に埋もれて生きるリア充は違う、他人の思い出(虚無)まで強制的に掘り起こして来る思い出プロフェッショナルだ。
ここまで散々「いやー、やっぱりネットで触れ合うような輩共とは感性が違いますなぁ。根っこが明るいしなぁ、この子」等とほのぼの思っていたと言うのに、ここに来て「僕の口は悪いと思う」と言う共通点を叩きつけて来るとは思わなかった。
僕がマンボウだったら、その時点でショック死である。
幸いな事に、僕はマンボウではなく下町の地を這うヘドロだった為、笑うだけで済んだが明るいリア充から言われる「口が悪いっすね」の指摘は中々にクる物があった。
ネットの住人の言葉の軽い事、軽い事。
「いや、全然いいと思いますよ」と言うフォローを頂いたので暫くは大丈夫だと思うが、また忘れた頃に突如として思い出で殴られる可能性が出てきたので、これを遺書として書いておく。
メモリー・ハート・ブレイクで俺が死んだら、「あいつは子供を庇ってプリウスに轢かれて死んだ」と誰彼構わず呼び止めて言いふらして欲しい。
そうすれば、恐らく5時間後ぐらいに、思い出墓場からニヤニヤしながら這い出た僕が「いやいや、そんな、大したアレじゃないっすよぉデュフデュフフ」と、完璧なリボーンを遂げるであろう。
架空の思い出はいつだってダメ人間を癒してくれる。リアルメモリーは酒とつまみだけで十分である。